執事喫茶に行ってきた-日記 12/5
男性接客のコンカフェ自体初体験だったのでめちゃくちゃ緊張した。メイド喫茶は女性だけで行くと友だちっぽい接客をしてくれるところが(体感だと)多いので、ついに「お嬢様」扱いされる日が来たか…と戦々恐々としていた。
心の準備のため、事前にネットで評判を見ていたが、「執事の〇〇さん推しです!」みたいな人々が徒党を組んでいるコミュニティとかを見つけてしまったので余計に恐ろしくなってしまった。
予約した時間に店頭に赴くと、燕尾服の好青年に出迎えられ、「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらでお待ちください」とフッカフカのソファーに座らされた。
本物だ。本物の執事だ。恐ろしいが、まだ、まだ野生のはぐれ執事である可能性もある。ガタガタと震えながら裁きの時を待つ。普通に寒くて震えていた気もする。
「お支度が整いましたので、ご案内いたします」と手で示された扉の前に立つと、ひとりでにそれが開き、中から燕尾服の好青年が出てきた。
燕尾服の好青年に連れられるまま絨毯敷きの廊下を進むと、そこはシャンデリアに煌々と照らされただだっ広いティーサロン。レースのカーテンが掛かり、大きな花瓶に青い薔薇が生けられ、アンティーク風の調度品が並び、そして所狭しと燕尾服の好青年が行き交っている。
我々を席まで案内したフットマンは、スマートに私の椅子を引き、膝にナプキンをかけ、ワイングラスに水を注ぎ、呼んでいないのにいい頃合いに注文を取って帰っていった。
季節のデザートプレートと紅茶を頼んだ。ゴシックとかいうフレーバーティーで、アッサムにウィスキーのフレーバーがついているそうな。めちゃくちゃ美味かった。
店内は意外と賑々しく、一人で来ているお客さんのところには頻繁に執事が話しかけに行っているように見えた。口調こそ丁寧だがなかなかフランクで、いい意味でコンカフェらしい雰囲気。
出してもらったティーカップが、一緒に行った友人が昔私にプレゼントしてくれた物と全く同じ物だった、という偶然があったのだが、そのことをフットマンに話したら「ノリタケがお好きなのですか!」と目を輝かせ、熱っぽくノリタケ蘊蓄を語り始めてくれたのがとてもよかった。
途中でその場の責任者らしきお年を召した執事が挨拶に来てくれたのだが、彼の姿を見た瞬間「幼少の折に私のお転婆を叱りながらも見守ってくれた爺や」のない記憶が鮮明に蘇ったのが恐ろしかった。
お茶を飲み切ったのでポットから次を注ごうとティーコゼーに手を掛けた瞬間、遠くから執事がすっ飛んできて(本当に“すっ飛んで”という感じだった)「気付くのが遅くなり申し訳ございません!!!」と謝り倒されたのでものすごく申し訳なくなった。すいません…育ちが悪くて…
店内にはいかにもなふりふりの服を着たお嬢様もいて、随分親密そうに執事と喋ったりもしていたが、そもそも執事の指名はできないらしく、四六時中お喋りに付き合ってくれるわけでもないようだった。はじめに恐れていたような紅茶でタワーを築くお嬢様同士の抗争とかはなさそうだった。(イベントとかでどうなるのかは知らないが)
あくまで「創作でしか見ないような執事が沢山いるキラキラした空間で、背筋を伸ばして繊細な菓子を食う」という非日常を楽しめる場所として、お値段に見合う価値はあったと思う。
帰宅の際、先述の爺やが上着を着せてくれたのだが、「腕をまっすぐにしてください、はい、お上手でございます!」と褒めてくれたのが普通に恥ずかしくなってしまった。
「それでは外で馬車が待っております。お足元が悪いのでお気をつけて。門限は22時ですから、それまでにお戻りくださいね」そう言って燕尾服の好青年が扉を開けてくれた。
思わず「ありがとうございました」って言っちゃったの悔しいな、次は「行ってきます」って言わなきゃな、と反省会をやりながら黄緑色の線が入った馬車で家路に着いた。